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「 約束(前編) 」
目指していたものがあった。
それを果たすため、ただひたすらに謀を巡らせ勢を動かし、あの巨勢に立ち向かった。
戦なんてものとは無縁の世界で生きていた自分にとって、今になってみれば恐ろしく無謀なことだったと思う。
そのために、どれだけ自分はこの手を汚し続けてきたのだろう。
◇ ◇
数日掛けてたどり着いたこの地を居と決めて7回目の月を見ることになる。
その時ちょうど朔月だったその姿は夜ごと膨らんでいき ―――― 今夜の姿は上弦の月になっていた。
「まるで、射殺されそうだな」
砂浜に寝転がって月を見上げながら、将臣は小さく呟いた。
矢を掛けて弦を引いたら、そのまま真っ直ぐこちらに向かってきそうなそんな幻想に囚われる。
もちろん、仮に本当にそのようなことがあったとしても、おとなしく射られるようなしおらしい気持ちは持ち合わせていないのだが。
なのに、そんな感傷的な気持ちが浮かぶのは何故なのか、理由が分からない。
「 ―――― ああ、そうか」
しばらくして、やっとその理由が思い浮かんだ。
月は毎夜目にしていた。
けれども、すべきことに忙殺されていた昨日まで、夜空を見上げてものんびりと月を見る余裕は全くなかったのだ。
こうやって月をゆっくりと眺めるのはどれくらいぶりだろう。
しかもたった一人で ―――― 共に鑑賞する者はもうほとんどいない。あの賑やかな日々は遠い昔のことだ。
月を愛で、酒を酌み交わし、楽を聴きながら歓談に興じる。
戦の只中にあっても雅の心を決して忘れなかった一門、それが自分が護ろうとした人たちだったことを思い出す。
「生き残ったのは俺だけ、か・・・・・・薄情な奴らだぜ」
それは決して正しい表現ではない。
だが、そう表現しても過言ではない程に、「仲間」たちはここではない遠い地へと旅立っていってしまった。
とその時、近くでばさっという何かが落ちるような音がした。
はっとして起きあがって振り返ると、そこには望美の姿があった。その足下には着物がある。
「望美・・・」
「あの、ごめんね。風邪引くといけないと思って、上着持ってきたんだ・・・・・・」
そう言う望美の顔色は、月明かりの下でもはっきりと分かるほどに血の気が引いていた。
「お前・・・今の、聞いていたのか」
「・・・・・・」
将臣の言葉を聞いた瞬間、望美の表情が強ばる。だがすぐにその表情は笑顔に変わった。
哀しいくらいの切ない笑顔に。
「私、戻ってるね。風、冷たいから・・・気を付けて・・・」
「あ、おい!」
言い終わるか終わらないかのうちに、望美はくるりと背中を向けてその場から駈けだす。
「 ------ くそッ」
将臣は舌打ちをして砂の上の着物を拾うと、闇に融け込みそうな望美を見失わないように急いでその後姿を追いかけたのだった。
◇ ◇
―――― 失態だ。
将臣は望美の顔を見て即座にそう思った。
まさか、あの場にいるなんて思わなかった。
一番聞かれたくない ―――― 聞かせたくない台詞を、聞かせてしまった。
今更あんなことを言ってもどうなるわけでもない。
なのに。
―――― 大バカ野郎だ。
どうしようもなく自分が愚かだと、将臣は思った。
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