「束の間の休息」
「あら」
土鍋からわき上がる湯気を眺めてぼんやりしていた譲の横で、野菜を切っていた朔が声を上げた。
「朔?」
「何だか野菜が足りないみたい。少しいただきにいってくるわね」
そう言いながら切りそろえた野菜を籠に入れておくと、朔は手を洗って前掛けを外しその場を出て行った。
その後ろ姿を見送ると、譲は土鍋の蓋を取って中のスープをかき混ぜた。
「譲くんっ」
その時、ひょこっと柱の陰から望美が顔を覗かせた。
「先輩? どうしたんですか?」
「何か手伝えることはないかなーなんて思って」
えへへ、と笑いながら望美は譲の側まで来ると、土鍋の中を覗き込む。
「これは何?」
「冬瓜のスープです。冬瓜は体の熱を取る作用があるから、この暑い時期にはちょうどいいでしょう?」
「そうなんだ。譲くんってそういうことも詳しいんだね」
「運動をやってると食べる物とか割と気を遣いますから」
譲はそう答えながら近くにあった小皿に、冬瓜をひとかけらとスープを少し盛った。
「はい、味見したいんでしょう? 熱いから気を付けて下さいね」
すると、望美はパッと目を輝かせる。
「うん、ありがとう」
笑顔で答えられて、それを見た譲は自分でも顔が熱くなったのが分かって、思わず顔を背けた。
だが、そんな譲の事情を知らずに、望美はぱくりと冬瓜を口に入れた。
「美味しいっ。それに、柔らかーい!」
口の中でとけそうなほどに柔らかい冬瓜は、ほのかに甘みがあってとても美味しかった。
「そう言ってもらえて良かったです。冬瓜ってそれ自身には味がほとんどないから、中途半端な味付けだと食べても物足りなくなってしまうんですよ」
そう言っていたのは譲の祖母、スミレだ。
小さい頃からおばあちゃんっ子だった譲は、料理も祖母から教えて貰ったのだ。そのため、洋食よりも実は和食の方が得意なのである。
「やっぱり料理が上手っていいよね〜」
しみじみといった様子で、望美が呟いた。
「・・・急にどうしたんですか」
「譲くんは、やっぱりお嫁さんにするなら料理上手な方がいいの?」
「え、ええっ!? ------ 熱っ!」
突然の望美の発言に、譲は左手で持っていた土鍋の蓋を思わず落としそうになってしまった。慌てて右手でそれを持ち直そうとしたが、土鍋の蓋は素手で持つには熱すぎて、結局取り損ねて下に落としてしまった。
「やだ、譲くんっ、大丈夫!?」
その様子に望美も慌てた。
幸い、落とした土鍋の蓋は割れずに済んだが、熱い蓋に触れた手は赤くなってしまっている。どうやらやけどを負ってしまったようだ。
「いけない、急いで冷やさなくちゃ」
「だ、大丈夫ですよ。そんなに酷く触ったわけじゃないし・・・」
譲は大したことないとばかりに、手を軽く振ってみせる。
だが、そんな譲を望美は一喝した。
「甘く見ちゃだめだよ! 痕が残ったら困るじゃない」
「俺、男ですから、別に痕が残ったところで困りませんよ」
「そ、それはそうかもだけどっ」
望美が慌てれば慌てるほど、譲の方が冷静になっていく。
しかし、結局望美の言葉に逆らえず、譲は水場へ連れて行かれて流水に手を浸された。
「大丈夫? 痛い?」
心配そうに望美が譲の手を覗き込んだ。
「痛くはないですよ。心配かけてすみません」
「そんなことないよ。私がヘンなこと言っちゃったからだよね・・・って、あれ? 私、何言ったんだっけ??」
「忘れてしまったんですか?」
首を捻る望美に譲は目を丸くした。
「うーん、何かびっくりしたら忘れちゃったみたい」
その時、遠くの方で「神子〜」と呼ぶ声が聞こえた。
どうやら望美のことを捜しているようである。
「白龍みたいですね。先輩、行ってあげて下さい」
「え、でも・・・」
「僕はもう大丈夫ですから」
ためらう望美を促すと、望美はごめんとばかりに両手を合わせて部屋を出て行った。
それを確認すると、譲は流水の中から手を出した。すっかり冷えきった手は、赤くなっているだけで水ぶくれといった酷いやけどの症状は全くない。
「・・・心配性なんだから、先輩は」
「あら、でも心配して貰うのって嬉しいことじゃない?」
「朔!?」
突然聞こえた声に譲はビックリして、先ほど望美が消えたばかりの戸口に目を遣る。
そこには野菜を入れた籠を抱えた朔がいた。
「いつの間に戻ってきてたんだ」
「さっきよ。お邪魔してはいけないと思って、外で待ってたの」
つまり、外で話を聞いていたというわけだ。
「気を遣わなくても入ってくればいいじゃないか」
「でも、私が入ると、望美は私とおしゃべり始めちゃうわよ?」
だって、女同士ですもの ------ そう、朔は続けた。
譲の隣に立ち持ってきた野菜を洗い始めた朔は、くすくす笑いながら更に言葉を続けた。
「それで、譲殿は『お嫁さんにするのは料理上手』な方がいいのかしら?」
「朔!」
からかうような朔の言葉に譲は思わず叫んでしまった。
「ふふっ、ごめんなさいね。でも、望美も可愛いわね、そんなことを気にするなんて」
「え?」
「ううん、私の独り言よ。譲殿は休んでて。後は私が済ませるわ」
洗い終えた野菜を籠に乗せると、朔は譲の側を離れる。
それを見ながら譲は大きく息を吐いた。
------ 女性の勘は侮れないな・・・
本音を言えば、自分の好きな人の周囲に八葉だからとはいえ、男がゴロゴロいるのも嫌なものだ。
だが、しかし。
もしかすると、一番気を付けなければならないのは彼らではなく、女性である朔なのかもしれないと、譲は思ったのだった。
〜 終わり 〜
後書きは下の方へ・・・↓↓
オ・・・オチ無しSSですね(汗
しかも、
お誕生日企画とか言いつつ、内容に誕生日の「た」の字もないです(殴
ただ、譲のお話を書きたかっただけ・・・です、はい ^^;
今まで書いた八葉×神子は、
その全て(かな?)が神子のベクトルのみが八葉へ向かっていました。
けれど、公式設定でも望美LOVEな譲なので、
さすがの私もようやく八葉→神子という逆パターンを考えることが出来ました ^^
もちろん、「望美も譲のことが・・・」という要素はお約束♪
両想いな話が書けてよかったです〜☆
とはいえ、私の書く朔ちゃんのポジションって、
どうやらツッコミらしいです(笑
ツッコミ相手は兄だけじゃない模様(爆
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