| 乞いて叶うは、まことの願い [其之五] | わたべ美紗穂 |
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冬休みに入って学校へ行くことがなくなると、考える時間だけがとても増えてしまった。
頭に浮かぶのは ---- 「あちら」のことばかり。
考えたくないのに、ふと気が付くといつも頭の大半を「あちら」のことが占めている。
何も考えたくなくて、冬休みの課題にずっと没頭していたら、課題もほとんどが終わってしまった。
なので、矛先を外へと向けた。
この間は友達と外出をしてもそんなに楽しくなかった。上手くは言えないけれど、自分が一緒に歩きたい人は彼女たちではない ---- 心の中でそう思っていたのだと思う。
「あちら」では、大勢で色々なところを旅して回った。決して楽な旅ではなかったし目的はとても重いものだったけれど、それでも彼らと一緒にいることはとても楽しくて充実していた。
それをもう一度、感じたい。
一度そう思ってしまうと気持ちばかりがどんどん膨れあがって、気が付いたら望美は携帯電話を握っていた。
何のためらいもなく短縮で呼び出した相手は・・・。
同じように「あちら」で旅をし、同じように「ここ」に帰ってきた幼なじみ、だった。
「さすがに境内まで行くのは遅すぎるかもしれませんね」
交差点を渡り八幡宮の鳥居の下まで来ると、譲が大石段へ続く参道を眺めながら呟いた。
今の時刻は午後4時少し前。
冬至を過ぎたばかりのこの時期、日の落ちるのは一年で最も早い頃だ。
すでに太陽は目に見える範囲にはない。周りの景色がだんだん彩りを落とし、夜が近づいてきていることを物語っている。
このまま歩いても、境内に着く頃には辺りは真っ暗になっているだろう。
「でも、人もまだ多いし大丈夫だよ」
もともと家を出た時間が遅かったのがいけなかったのだが、ここまで来て引き返すのもどうかと思う。
そんな望美の言葉に譲は苦笑する。
「そう言われればそうですけど・・・」
「じゃあ、行こっ」
望美はそう言って先に歩き出した。
鎌倉で生まれ育った望美にとって、この八幡宮も幼い頃から何度も来たことのある場所だった。けれども、最近訪れたのは一体どれくらい前のことだろう。
何度も見慣れたはずの景色に、今日はどこか違和感を感じた。
友達と来ることもあるけれど、どちらかと言えばここには幼なじみと来ることの方が多かったのだ。幼なじみ ---- 将臣と譲と、三人で。
でも、今日は将臣がいない。譲と二人きりだ。
違和感の原因はそれなのだろうか。
「ねぇ、譲くん」
歩みを止めて望美は譲を振り返った。
「将臣くんは元気かな?」
その言葉に譲は驚いた表情を浮かべる。
「そういえば、兄さんとはここで会ったのが最後でしたね」
「うん、惟盛と戦った後、またいなくなっちゃったんだよね」
望美には将臣がいなくなった理由が分かっていた。
自分も将臣も譲も「あちら」に行ったのは同じ時間、同じ場所だったのに、着いた時には将臣だけが時間も場所も異なってしまっていた。その違いだけで、彼の成すべきことと望美たちの成すべきことは、180度異なるものになってしまったのだ。
彼は望美たちとは既に袂を別っていたのだ。
相容れない立場。
彼はその成すべきことのため ---- 大切な人たちのために、あちらに残った。
---- 羨ましいなぁ・・・将臣くんが。
「あちら」に残れた将臣が羨ましい。
彼はきっと、望まれて「あちら」に残ったのだ。もちろん、彼自身も残る理由を見いだしていたのだろうけれども。
残る理由と、周囲の望み。
その二つが重なり合ったからこそ、それを成し遂げることが出来たのだ。
でも、自分は・・・そうじゃなかった。
自分は「あちら」に居場所を作ることが出来なかった。
一番側にいたかった人、その人本人から「帰りなさい」と言われてしまったのだ。
「先輩・・・」
隣で譲の声が聞こえた。
その声で、望美は自分が泣いていることに気付いた。
「あ、ごめっ・・・」
慌てて涙を拭いたけれど、流れ始めた涙を抑えることは出来なかった。
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